京都観光スポット(4) 六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)

雨の日に傘をさしながら、庭園などを散策するのも悪くはありませんが、そんな時こそ、室内で仏像などとゆっくり対面するのも一興です。京都の街中付近では、三十三間堂東寺の仏像が有名ですが、団体客に押されながらの拝観は疲れます。

私は、六波羅蜜寺の木造彫刻が好きです。ここは、ほぼ貸切で拝観できます。

六波羅蜜寺は、京都の東山、清水寺などと鴨川の間あたりにあります。祇園の南側です。京都駅からは、タクシーでもワンメータ・プラスぐらいで行けます。清水寺あたりから祇園方面に向かう途中に、寄り道できる場所です。

かつては、相当な規模を誇った名刹だったらしいのですが、いまでは社域も狭く、周囲はすっかりリニューアルされていて、古の面影はなくなってしまっています。しかしながら、本堂の内部に往時が偲ばれます。

ここの宝物館には、平安時代鎌倉時代の木造彫刻が展示されています(本堂拝観を合わせて入場料は600円也)。なかでも私が一番好きなのが、空也上人立像。念仏を唱える空也上人の口から、小さな仏様が一列になって出ている像は、歴史か美術の教科書で見たことがありました。私は、ここで、その像を見て、旧友にばったり出会ったような懐かしさを感じました。念仏を唱えながら市井を歩く空也上人のお姿が表現されています。着衣などがとてもリアルです。念仏を、ちいさな仏様で表現するアイディア(南無阿弥陀仏に対応して6体)も秀逸です。これぞ漫画の「吹き出し」の元祖かもしれません。この像は運慶の四男の康勝の作だそうです。

運慶の作とされる地蔵菩薩坐像など、鎌倉時代に活躍した仏師である運慶やその一門の作品が収蔵されています。また、運慶とその長男、湛慶の像とされる木造もあります。こちらもまた、とてもリアルです。

三十三間堂や当時の方が、数では圧倒的にインパクトがありますが。六波羅蜜寺の像はどれも、リアルで躍動感があり、見ていて飽きません。私は、そんな鎌倉時代の木造彫刻に共感を覚えます。それ以前の仏像は、概して無表情で「鉄仮面」的な印象があったり、あるいは微妙な表情だったりします。どうしても、我々は無意識のうちに顔の中から表情を読み取ることをしてしまうのですが、表情が読み取れないと不安な気持ちになります。仏教の深淵な教義、あるいは、芸術鑑賞の観点からは、仏像のお顔に喜怒哀楽といった俗物的な表情をみるのではなく、その内面性に触れなくてはならないのかもしれませんが、私は、まだまだ修行が足りないようです。

私は、上述の通り、宗教的な境地には達し得ませんが、それでも、古来の仏像がどれほどの数の有名、無名の参拝者たちを眺め、その願いを聞いてきたかということに思いを巡らす時には、畏怖の念すら感じます。時間を忘れて、しばし、ぼーっと仏像と対面することで、日頃の頭の中のモヤモヤを忘れる時間を持つことは貴重ですよね。